「神の冬 花の春」第三章の1

  • 2014.11.28 Friday
  • 22:50
●第三章 雪が始まる

 クリスマスに降り出した雪は、十二月二十八日になっても、まだ降り始めていた。
 といっても、積もるほどではない。地面に触れると、消えてしまうのだった。
「じゃあ、行ってくるから」
 駅のホームで、恭司は手を振った。実家の青森に帰るのだ。
 進学を控えて、親と顔を合わせて相談しなければならなかった。恭司は東京で進学するつもりだったが、親は、せめて東北地方の大学にしろ、と言って譲らないのだった。どちらにしても、一度は直接、会って話をする必要がある。そのための、帰省だった。
 見送りに来た季里は、うつむいた。
「……恭司」
「うん?」
「かならず、帰ってきてね。私、もう一度、恭司に会いたい」
「帰ってくるに決まってるだろう」
 恭司は不思議に思った。
「どうしたんだ?」
「ううん、なんでもない。ただ、急に心配になっただけ」
 恭司はそれを、進学についてのことだと思った。
「だいじょうぶだよ。俺は東京にいたいんだ。季里もいるしね」
「うん。ありがとう」
 四両編成の私鉄が、ホームからすべり出すのを見送りながら、季里は自分でもとまどっていた。
 この胸騒ぎはなんだろう。恭司の身に、何か起こるというのだろうか。
 あるいは、季里自身に――?

 駅から直接、季里は学校へ向かった。
 もう年末で、図書館に人の姿はなく、司書の森本先生だけがたいくつそうにカウンターで本を読んでいた。
「本を借りにきました」
 季里が声をかけると、先生はわずかにうなずいた。
「好きなだけ持っていっていいぞ。おまえさんで今年は店じまいだ」
  季里は書庫へ行った。
 天井まである棚の間を歩いて、おもしろそうな本を捜す。一時間近くかけて、選び出したのは次のような本だった。
 ビーグル『心地よく秘密めいたところ』
 フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』
 名木田恵子『ナイトゲーム』
 神林長平『七胴落とし』
 マキャモン『ミステリー・ウォーク』
 レイノルズ『消えた娘』
 選んだ本を持ってカウンターへ行く。
「先生は、何を読んでいるんですか?」
「僕かい?」
 先生は、手にした本の背を見せた。『日本の呪い』とタイトルがあった。
「のろいの本ですか?」
「というか……まあ、民俗学の本だな。世の中に、汚れと祓いがあるという――いや、水淵にはまだ早すぎるかもしれないね」
「けがれ、ってなんですか」
「世の中から追い出されるもののことだよ。社会っていうのは、何かを追い出さなければ保っていけないんだ」
「たとえば、私みたいなもの?」
「おまえさんは別に、追い出されるような存在じゃないだろう」
「でも私は、いつも世の中の外にいるみたいな気がします」
「なるほどな」
 森本先生はうなずいて、
「水淵には『力』があるからね。だけど、自分が特別な人間だとは思っていないだろう」
「はい」
「それに水淵には相沢たちがいる。人は他の人とのつながりがあって、自分もそのつながりの中で生きてるのを知っていれば、ちゃんと社会の一員だ。多少はみ出してたって、気にすることはないさ。――さて、授業はこれくらいにしようか」
「はい。ありがとうございます」
 季里は頭を下げた。

 図書館を出て、季里は足を止めた。
 構内の中では図書館に遠い、野球部のグラウンドで、声がしている。

(つづく)
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季里メモ:今回の原稿では、筆が足りないところがある、と私は思います。いろいろな事情(私の、実の親とか)など、省略しているところがあります。
 けれど、これは第一シーズンの三作目ですし、いくらなんでも、私の親と姉は事故で亡くなって――をくり返しているのもなんだか……なので、この作品では、積極的な理由がなければ、もういいでしょう、というのが、早見さんとご相談の結果です。
 ほんとうに、25年も経って、その続きを書くのはたいへんなようで、前の回では、がまんしかねて、ゲスの極み乙女。を出してしまいました。まあ、それを言ったら、MP3プレーヤも、出せないことになるのですけれど。
 問題は、この後です。


 
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