「神の冬 花の春」第四章の1

  • 2014.12.04 Thursday
  • 19:38
第四章(章題未定)

 次の朝、季里はこたつの中で、目が醒めた。
 本を読みながら、眠ってしまったらしい。なんだか少し、だるいような気がした。
 こたつから出ると、部屋の中はぴん、と張り詰めた寒さだった。昨日とは、明らかに違う、冬だった。
 カーテンを開けた。雪が屋根に積もっている。東京では見たことのない、大雪だ。
 着替えをして、DKへと降りた。紘史が腕組みをして、テレビを見つめている。天気予報だった。
『大陸からの湿った低気圧は、勢力を増しながら、首都圏近郊の上空に居座っています。年末年始にかけて、歴史的な豪雪が降る可能性があります』
「もう、遅いんだよ」
 苦々しい、という表情で、紘史が言った。
「どうしたの? 紘史兄さん」
「ドアが開かない。勝手口も、店のドアも。ひと晩で積雪八十センチだそうだ」
「えっ……」
 それは、生まれ故郷の青森でも、あまり起きない、豪雪だった。
 窓の外を見る。たしかに雪は、DKより二段高い勝手口より、ずっと高く積もっていた。そして、――まだ雪が降っている。冷え切った空気がぴんと張りつめて、空も、地面も、白一色だった。
 雪は、空の寒さを表わして細かく、とても速く静かに、地上に落ちてくる。
「どうしよう」
「まあ、二階の窓から出て、物置の雪かきを出して、とりあえず、天井の雪かきだな。東京でこの雪じゃ、建物がつぶれる。あとは、店の側のドアが開くようにしよう。道路はまだ、つぶされていないようだからな」
「私は何をしたらいい?」
「そうだな。とりあえず、朝飯を頼む。俺は庭のようすを見てくるよ」
「――うん」
 他に、できそうなことは、ない。
 季里は冷蔵庫を見た。白菜があったので、それで味噌汁を作ることにした。
 鍋にお湯を沸かしていると、どさっという音と共に、窓の外に紘史が飛びおりて来た。プールの中を歩くようなかっこうで、手で雪をかきながら、物置に向かっていく。苦労して物置へとたどり着くと、扉をしばらくがたがたと揺すっていたが、なんとか開いたようで、中から、先がとがっていなくてプラスチック製の、雪かきを出して、また苦労して、勝手口へと雪をかいて近づいてきた。
 季里が朝食を作って、テーブルに並べてから少し経って、勝手口のドアが開いて、ダウンジャケットを着た紘史が入ってきた。
「支度、できたよ」
「ああ。これから屋根へ登るんだが、先に飯を食おう」
 ふたりはテーブルについた。
「もう八時か」
「お店、開けるつもり?」
「開けられればな」
 紘史の表情は、仕事の顔になっていた。
「かろうじて、車道は通れるようだ。寒いときには、お湯の一杯でも、温かいものが欲しい人が通るんだよ。うちには井戸があるし、いざってときは、ほんとうにお湯だけでも出すのが、喫茶店の役目だろうよ」
 季里はうなずいた。
「私、手伝うね」
「宿題があるだろう」
「お客さんが来なかったら、カウンターで、宿題はできるから。もし、うんとお客さんが来たら、手伝うのは当然でしょう」
「……そうだな」
 紘史が何を考えているのか、季里には分かった。
「青森も、雪かな」
「たぶん、な」
「恭司もたいへんかな」
「向こうは除雪車が回ってくるから、そんなにたいへんじゃないだろう。屋根雪は、気をつけなきゃいけないが」
「……紘史兄さんは、帰省しなくていいの?」
 すると紘史は、季里を見つめた。
「季里。俺の家は、ここなんだよ」
「――うん。私も、ほかに帰る家はないよ」
 では、恭司は……言いかけて、季里は、やめた。
 季里が、わがままを言うことは、できないのだ。
 かろうじて、言った。
「戻ってくるときには、降ってないといいね。雪」
「こういう気持ちは、雪国の人間じゃないと、分からないかもしれないな」
 紘史は苦笑いした。
「まあ、分かってもらうほど、降られても困るが」
「そうだね」
 季里は微笑んで、しかし、何か不安を感じていた。
 いくら異常気象とは言っても、こんなに雪が降るなんて――。
 ひどく、いやな予感がした。
(この章、つづく)
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季里のメモ:雪かき、というものは、知らない方もいらっしゃると思いますけれど、長い木の柄に、プラスチックの大きなシャベルのようなものがついている、雪国には欠かせない、雪かきの道具です。
 他にも、雪かきの道具はいくつかあるのですけれど、困るのは、雪をどこへ持っていくかです……。
 
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