「神の冬 花の春」五章の1

  • 2014.12.13 Saturday
  • 00:00
第五章

 大晦日までに、雪は四メートル、降り続いた。

 その頃になると、府中街道のような幹線道路は別にして、商店街のような細い道では、もう、積雪を取り徐くことは、諦めないわけにはいかなかった。ブルドーザは、雪をどけては、近所の学校に運んでいたが、しだいに多くなる積雪に、作業が間に合わなくなったのだ。
 喫茶『ねむ』では、十二月二十九日の内に、紘史が板を買ってきて、外側から窓に打ちつけて、ガラスが割れるのを防いだ。店のドアの前は、かろうじて除雪していたのだが、外の、人が踏み固めた細い道からドアに降りるには、一メートル以上の段差を降りてこなければならず、事実上の開店休業だった。
 それでも、毎朝、紘史は開店の準備をし、季里は朝食を作った。そして、店に細野晴臣の『泰安洋行』や、シュガーベイブの『SONGS』を流した。どちらも、夏の盛りに似合うような曲だった。
 ふたりは、自分たちなりに、闘っていたのだ。――暴虐の冬に。
 大晦日の夜、店を閉めると、雨戸を閉めて、紘史は台所で、紅白歌合戦を流しながら、雑煮を作った。店の冷蔵庫も合わせると、一週間ぐらいの食料の買い置きはあった。客が来ることは、もう、諦めなければいけないようだった。それより、自分たちの命を守ることのほうが大事だ。
 紅白歌合戦の途中、季里が名前を知らない女性の演歌歌手が歌を歌っている途中で、画面にテロップが入り、映像は、スタジオに代わった。男性のアナウンサーが告げた。
『番組の途中ですが、首都圏の降雪情報をお知らせします』
 季里は、緊張した。こんな放送は、見たことがない――。
 画面は、NHKホールの周りを映し出した。ブルドーザやロータリー車、モーターグレイダーなどで、ホールの周りの雪をどけていたが、雪があまりにも降りしきるので、たびたび視界がさえぎられた。
『画面に映っていますのは、渋谷、NHKホールの周囲の映像です。現在、関東一円の土木事務所、自衛隊などが除雪を行なっております。気象庁発表では、一日の積雪量は一メートルを超えており、全体の積雪量は、推計、四メートルになっております。……気象庁は、落ちついて行動すること、家の窓などを保護するよう呼びかけています』。
「落ちついて、か……」
 紘史は、苦々しそうに言った。
「こんなところで、落ちついて死を待て、って? 冗談じゃない」
「紘史兄さん。兄さんは、死ぬ、って思うの?」
 季里がきくと、紘史は首を振った。
「雪が十センチで、交通機関がマヒするような土地だ。しかも、まだ雪は、止んじゃいない。家を守って討ち死にするか、いったん退却してことが収まるのを待つか……戦国武将の評定みたいだな」
「でも、どこへも、退却、できないんでしょう」
「交通の状態を見てみよう」
 ふたりがテレビを見ていたとき、ふいに、画面には何も映らなくなった。
「アンテナのせいかな。あしたの朝一番で、見てみよう」
 紘史はラジカセを持ってきた。
(この章、続く)
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季里メモ:この章は、27年ぐらいに、早見さんが書いておいたものです。
 ほんとうに、こんなことにならないように、私は心から、祈っています……。
 
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